原価は、いまどこまで上がっているか

まず、自店の仕入れに効く全体の流れを押さえます。企業どうしが取引するモノの値段をまとめた、日本銀行の「企業物価指数」が手がかりになります。2026年1月の指数は前年比でプラス2.3%でした。前の月(2025年12月)のプラス2.4%から、上がるペースはわずかにゆるんでいます。

ここで読み違えやすいのが、「ペースがゆるんだ=価格が下がった」ではない点です。指数そのものは2021年ごろからの値上がりを抱えたまま高い位置にあり、そこからの伸びが小さくなっただけです。仕入れ価格が以前の水準まで戻ったわけではありません。高い水準で高止まりしています。

企業物価指数とは 企業どうしの取引価格の動きを、日本銀行が毎月まとめている指数です。原材料や部品の仕入れ値が全体としてどう動いているかの目安になります。最新の月は日本銀行のサイトで公表されます。

燃料は、なぜ読みにくいか

燃料は、全体の流れとは別に見ておく必要があります。原油の値動きや為替で月ごとに大きく振れるため、指数の平均値だけでは実感とずれるからです。資源エネルギー庁の「石油製品価格調査」で、軽油の全国平均小売価格を追うと、2026年1月初旬は1リットル約143円、それが3月中旬には約178円まで上がりました。数か月で30円以上動いた計算です。

代車・レッカー車・運搬車に軽油を使っているなら、この振れがそのまま燃料費にのってきます。さらに、2026年4月1日に軽油の暫定税率分(1リットルあたり17.1円相当)が廃止されました。税の上乗せが消えた一方で、原油価格そのものが上がれば店頭価格は下がらないこともあります。税の動きと相場の動きは、分けて見るのが安全です。

軽油の小売価格は資源エネルギー庁「石油製品価格調査(給油所小売価格調査)」、暫定税率の廃止は2026年の制度・統計カレンダーを参照(2026年6月4日確認)。

コストが膨らむ口を、数字で押さえる

あなたの店でコストが膨らむ口は、部品・原材料、燃料・光熱費、人件費に分けて見ると整理できます。それぞれ、どこに数字が出るかも一緒に押さえておきます。

膨らむ口何が上がっているか数字が出る場所
部品・
原材料費
純正部品、オイル、タイヤ、バッテリーなどの仕入れ値。鋼材・樹脂・ゴムの高さが背景にあります。仕入れ伝票・卸の価格表。全体傾向は日銀の企業物価指数
燃料・
光熱費
軽油・ガソリン、工場の電気代・ガス代。塗装ブースやリフトを動かす電気も含みます。給油伝票・電力/ガスの請求書。相場は資源エネルギー庁の調査
人件費整備士の賃金。最低賃金の引き上げと、人手不足による相場の上昇が効きます。給与台帳・最低賃金の改定額(各都道府県の発表)

大事なのは、3つとも「自店の伝票や台帳」で金額を示せるという点です。感覚で「最近高い」と言うのではなく、前年の同じ月と比べていくら増えたかを並べれば、それがそのまま工賃を見直す根拠になります。

工賃や見積もりへ、どう通すか

上がった原価を利益から削らないために、見積もりと工賃に通す手順を考えます。金額の理由がお客様に伝わるよう、内訳を分けて示します。

  • 部品代は「仕入れ値+手数料」を分けて見せる。 部品の値上がりは伝票で説明できます。本体価格と工賃を一緒くたにせず、部品がいくら、作業がいくらと分けておくと、値上がりの理由が伝わります。
  • 工賃(レバーレート)を見直すなら、根拠の数字を添える。 整備士の賃金が上がり、電気代も上がった分を、1時間あたりの工賃に反映します。最低賃金の改定額や電力の請求書は、社内で改定を決めるときの裏づけになります。
  • 定期的に来るお客様には、改定の前に一言伝える。 車検や点検で毎回来てくれる方には、「部品と人件費が上がったため、工賃を見直しました」と先に伝えておくと、次の請求で戸惑いません。

値上げそのものより、理由が見えないことのほうがお客様の不満になります。何が上がったかを金額で示せれば、納得してもらえる余地は広がります。

値上げで客は離れるか ― 整備売上のデータ

「値上げをすると客が離れるのでは」という不安は、データで一度確かめておく価値があります。日整連の「自動車特定整備業実態調査」によると、総整備売上高は2023年度実績で6兆2561億円、前年比プラス5.9%でした。6兆円を超えたのは18年ぶりです。

作業の中身を見ると、車検整備がプラス2.6%、定期点検整備がプラス3.1%、事故整備がプラス9.6%と、すべての項目で伸びています。台数が大きく増えたわけではない時期に売上が伸びたのは、1台あたりの単価が上がったことが効いています。つまり、上がった原価は業界全体として売上に通っている、という流れです。

これは「だから安心して上げてよい」という話ではありません。値上げをためらって原価だけが膨らめば、利益が先に削れます。業界全体が同じ方向に動いているという事実は、自店で改定を決めるときの後ろ盾になります。

日整連「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果」(2023年度実績)をもとに作成(2026年6月4日確認)。

いま自店で確かめておくこと

次の3つを、自店の数字で確かめてください。これがコスト増へ備える最初の一歩になります。

  • 部品費・燃料費・光熱費・人件費の、前年同月との差。 直近1年ぶんを並べて、どこが一番膨らんでいるかを見ます。
  • いまの工賃(レバーレート)を最後に見直したのはいつか。 数年そのままなら、上がった原価とのずれが出ている可能性があります。
  • 見積書で、部品代と工賃が分かれて見えるか。 一緒くたになっていると、値上がりの理由がお客様に伝わりません。

数字がそろえば、工賃の見直しも、お客様への説明も、感覚ではなく根拠で進められます。相場の確認には、日本銀行と資源エネルギー庁、日整連のページを定期的に見ておくと役立ちます。

よくある質問

燃料や部品の値上がりは、もう落ち着きましたか?
全体の上がり方はゆるんできています。日本銀行の企業物価指数は2026年1月で前年比プラス2.3%と、上昇のペースは鈍ってきました。ただし原油の値動きで石油製品は月ごとに振れが大きく、軽油の全国平均小売価格は2026年1月初旬の1リットル約143円から3月には約178円まで動いています。水準は高いまま、振れ幅が大きい状態が続いています。
値上げをお客様に伝えると、離れていきませんか?
業界全体では、上がった原価は売上に通っています。日整連の調査では総整備売上高が2023年度実績で6兆2561億円、前年比プラス5.9%と18年ぶりに6兆円を超えました。値上げをためらって原価だけが上がると、利益が先に削れます。何が上がったかを見積もりで示し、納得してもらえる形に組み直すのが先です。
工賃を上げる根拠は、どこから持ってくればいいですか?
部品費の値上がりは仕入れ伝票で、燃料や光熱費は請求書で、人件費は最低賃金の改定で、それぞれ数字を示せます。これらを月ごとに記録しておけば、なぜ工賃を見直すのかを、感覚ではなく金額で説明できます。日整連の整備売上のデータも、業界全体が同じ流れにあることの裏づけになります。
軽油の暫定税率の廃止で、燃料費は下がりますか?
軽油の暫定税率分(1リットルあたり17.1円相当)は2026年4月1日に廃止されました。代車やレッカー車、運搬車に軽油を使っているなら、その分は負担が軽くなります。ただし原油価格そのものの値動きが大きいため、税が下がっても店頭価格が必ず下がるとは限りません。実際の給油価格で確かめてください。

出典

SOURCES | 一次情報
  1. 日本銀行「企業物価指数」公表データ一覧(2026年1月は国内企業物価が前年比+2.3%。最新月の数値はPDFに掲載) boj.or.jp/statistics/pi/cgpi_release/ (2026年6月4日確認)
  2. 資源エネルギー庁「石油製品価格調査(給油所小売価格調査:ガソリン、軽油、灯油)」 enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/results.html (2026年6月4日確認)
  3. 日本自動車整備振興会連合会(日整連)「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果」(2023年度実績:総整備売上高6兆2561億円・前年比+5.9%) jaspa.or.jp (2026年6月4日確認)
  4. 軽油の暫定税率廃止(1リットルあたり17.1円相当・2026年4月1日)の根拠は、当ラボの制度カレンダー記事に出典をまとめています kuruma.showby.media/news/jidosha-houkaisei-calendar-2026/ (2026年6月4日確認)

企業物価指数と軽油の小売価格は調査時点の数値です。月ごとに動くため、判断の前には各機関の最新ページで再確認してください。整備売上の数値は2023年度実績にもとづきます。

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