手元の現金で払うのが一番こわい理由
リフトが古くなった。OBD検査に対応するスキャンツールも要る。見積りを見て、通帳の残高と見比べて、手が止まる。借金は増やしたくないから現金で払おうか、という考えが頭をよぎっているなら、まずそこを止めてください。
整備の商売は、お金の入りと出が月でずれます。車検の入庫が重なる月は売上が立ちますが、その手前で部品を仕入れ、外注に出し、給与を払う出費が先に来ます。ここで設備の支払いに手元の現金を当て切ると、入庫が薄い月に資金が回らなくなります。利息がもったいないという理由で現金を吐き出した結果、運転資金が痩せて、かえって苦しくなる。これが一番こわい順番です。
設備の支払いと、毎月の部品代や給与のための運転資金は、別の財布で考えます。設備は借りて、現金は手元に残す。利息は、その安心を買うための費用だと見てください。日本政策金融公庫には元金の返済を一定期間待てる据置期間があり、設備が稼ぎ始めるまで利息だけの支払いにできます。この一手だけで、出ていく現金の山が大きく変わります。
まず「いくら要るか」を機器ごとに出す
調達の話に入る前に、必要な額を機器ごとに分けて出します。ひとくくりに「設備で数百万」と見ると判断が止まりますが、分ければ「今すぐ」と「来期でいい」が見分けられます。
OBD検査は、国産車が令和6年10月1日、輸入車が令和7年10月1日から車検の項目に加わりました。自店で電子制御装置の整備や検査を続けるなら、対応する機器が要ります。OBD検査にも使える汎用のスキャンツールは、一例として約50万〜70万円の価格帯です。リフトや塗装ブースの更新はこれと別に積み上がります。
| 項目 | 金額の目安 | 緊急度の見方 |
|---|---|---|
| OBD対応スキャンツール(汎用機の一例) | 約50〜70万円 | 車検を続けるなら必須 |
| リフト更新 | 店ごとに見積り | 老朽・安全に直結なら優先 |
| 塗装・診断などの設備 | 店ごとに見積り | 売上の伸びと相談 |
金額は機種・グレード・販売店で変わります。表の額は一例で、必ず複数社の見積りを取って自店の数字に置き換えてください。
機器ごとに「いくら・いつまでに」を書き出すと、全部を一度に借りる必要がないと分かります。今期に要るのはスキャンツールだけで、リフトは来期でいい、と切り分けられれば、借りる額もそのぶん小さくできます。
借りる前に、買う額を補助金で削れないか確かめる
借入の相談をする前に、買う額そのものを減らせないかを確かめます。設備の購入が補助金の対象になれば、自己負担が半分前後まで下がる場合があります。借りる元本が小さくなれば、利息も毎月の返済も軽くなります。
整備の機器更新で目に入るのは、ものづくり補助金とIT導入補助金です。ものづくり補助金の製品・サービス高付加価値化枠は、機械装置の導入が補助の必須経費に入っており、補助上限は従業員規模で分かれます。
| 従業員数 | 補助上限 | 補助率 |
|---|---|---|
| 5人以下 | 750万円 | 中小企業 2分の1/小規模 3分の2 |
| 6〜20人 | 1,000万円 | 中小企業 2分の1/小規模 3分の2 |
| 21〜50人 | 1,500万円 | 中小企業 2分の1 |
| 51人以上 | 2,500万円 | 中小企業 2分の1 |
ものづくり補助金(令和6年度補正・製品・サービス高付加価値化枠)。公募回ごとに枠や要件が変わるため、申請前に最新の公募要領を確認してください。出典は記事末尾。
補助金は申請してから採択・入金まで時間がかかり、必ず通るとは限りません。だから「補助金が出るまで設備を待つ」とは考えず、「補助金で買う額を削れたらもうけもの、出なければ全額を借りる前提」で動きます。先に見積りと事業計画を整えておけば、公募が開いたときにすぐ出せます。OBD対応など現場のシステム入れ替えの具体は、IT導入補助金と持続化補助金のほうで詳しく見ています。
公庫の据置期間で、返済の山を後ろにずらす
買う額を詰めたら、残りをどこから借りるか。整備工場の設備資金で最初に相談する先が、日本政策金融公庫です。民間の銀行より、創業期や小規模の事業者でも相談に乗りやすく、設備資金の制度がそろっています。
公庫の設備資金で効くのが据置期間です。据置期間とは、元金の返済を待ってもらい、その間は利息だけを払う期間のことです。新しい機器を入れても、それが売上を生み始めるまでには時間がかかります。据置を使えば、稼ぎが出る前の苦しい時期に元金の返済が重ならず、毎月の出ていく現金を抑えられます。設備資金は、運転資金として借りるより金利が低く設定されることが多く、長く借りても利息の負担を抑えやすい区分です。
据置を使わなければ、借りた翌月から元金と利息の両方を返します。据置を付ければ、その期間は利息だけ。設備が稼ぎ始めてから元金の返済が本格化するので、入庫が読めない最初の数か月の資金繰りが楽になります。期間は制度や審査で決まるため、相談時に「据置を何か月付けられるか」を必ず聞いてください。
相談には、直近の決算書(2期分が目安)と、設備の見積り、その設備で何をどれだけ増やすかを書いた簡単な計画を持っていきます。「リフトを更新すれば車検を月に何台多く受けられる」という見通しが言えると、審査の説明がしやすくなります。
担保や連帯保証人がなくても借りられる
借入をためらう理由の多くが、担保と連帯保証人です。土地を担保に入れるのはこわい、親族に保証人を頼みたくない。そこで止まっている社長は少なくありません。ここは前提を正しておきます。
日本政策金融公庫では、一定の要件を満たすと経営者本人の個人保証が不要になり、個人営業の方は原則として連帯保証人なしで借りられます。担保を付けるかどうかも、相談のうえで決まります。担保や第三者の保証人がなければ借りられない、という思い込みでためらう必要はありません。
経営者保証を外す要件は、店と個人のお金がはっきり分かれていること、決算の中身が説明できること、といった点が見られます。普段から店の口座と個人の口座を混ぜず、試算表を月ごとに付けておくと、無保証で借りられる可能性が上がります。まずは決算書を持って相談し、自店がどの条件で借りられるかを確かめてください。借りられるかどうかは、相談する前に頭の中だけで決めないことです。
足りない分は信用保証協会の保証で長期に組む
公庫だけで足りない、あるいは取引のある地元の銀行からも借りたい。そのときに使うのが、信用保証協会の保証を付けた制度融資です。信用保証協会が保証人の役割を担い、その代わりに保証料(おおむね1%程度)を払う仕組みで、銀行は貸しやすくなります。
設備資金の制度融資は、返済期間が長く取れるのが利点です。融資期間は設備資金で15年以内(うち据置期間3年以内が目安)と、公庫より長く組める場合があります。月々の返済が小さくなるぶん、毎月の資金繰りは楽になります。
申込みには2つの道があります。普段の取引銀行に相談して銀行から保証協会につないでもらう道と、市区町村や都道府県の制度融資として、自治体の窓口で認定を受けてから申し込む道です。自治体の制度融資には、保証料や金利の一部を自治体が補助してくれるものもあります。自店のある市区町村の商工担当の窓口に、整備業で使える制度融資があるかを一度聞いてみてください。
補助金で買う額を削る → 公庫の設備資金(据置あり)で元金の返済を後ろにずらす → 足りない分を信用保証協会経由の制度融資で長期に組む。手元の現金で全額払うのは最後です。利息を惜しんで運転資金を痩せさせるより、借りて現金を残すほうが、入庫の波がある整備工場では安全です。
あなたの店が来週からできること
大きな制度の話で終わらせず、月曜から動ける形にします。順番は、額を出す・補助金を確かめる・公庫に相談する、です。
- 更新したい設備を書き出し、複数社から見積りを取る
- 機器ごとに「今期に要る」「来期でいい」を分け、今すぐ借りる額を小さくする
- OBD検査に自店が対応できているか、対応機器の過不足を確かめる
- その設備がものづくり補助金・IT導入補助金の対象になるか、公募要領で確かめる
- 直近2期の決算書と設備の見積りをそろえ、日本政策金融公庫に相談の予約を入れる
- 市区町村の商工担当の窓口に、整備業で使える制度融資と利子補給があるか聞く
- 店の口座と個人の口座を分け、試算表を月ごとに付ける(経営者保証を外す条件づくり)
- その設備で何をどれだけ増やすかを、1枚の計画にまとめる
設備の出費は、借り方の順番だけで手元に残る現金が変わります。額を出し、補助金で削り、据置を使って借りる。現金を吐き出さずに更新を進めた店から、入庫の波がある月も落ち着いて回せます。