入れたいシステムの前で手が止まったあなたへ
車検の予約をネットで受けたい。点検記録や顧客台帳を紙からシステムに移したい。見積りも会計とつなげたい。やりたいことははっきりしているのに、初期費用と毎月の利用料を並べると、手が止まる。そんな場面で「補助金が使えるらしい」と聞き、調べ始めたところだと思います。
調べるとまず二つの名前が出てきます。デジタル化・AI導入補助金(2026年1月まで公募していた「IT導入補助金」の後継制度)と小規模事業者持続化補助金です。名前が似ていて、どちらも国(中小企業庁)の制度で、どちらもシステムに使えそうに見えます。ですから「結局どっちを使えばいいのか」で詰まります。
結論を先に置きます。二つは対象になる支出も、補助される割合も、相談する窓口も違う、別の制度です。ソフトそのものを入れるならデジタル化・AI導入補助金、ホームページやチラシで客を増やす取り組みの一部にシステムを組み込むなら持続化補助金、という見分けが土台になります。この見分けを、自店の従業員数と入れたい支出に当てて確かめる手順を、順に見ます。
自店が「小規模事業者」に当たるかを先に確かめる
どちらを使うかの前に、入口で一つ確かめることがあります。持続化補助金は名前のとおり「小規模事業者」しか申請できません。あなたの店がそこに入るかどうかで、選べる札が変わります。
小規模事業者かどうかは、業種ごとに常時使用する従業員数で決まります。ここで間違えやすいのが、整備業を「製造業」寄りに思い込むことです。持続化補助金の業種区分表では、自動車整備業は日本標準産業分類上「サービス業(他に分類されないもの)」の「自動車整備業」に当たり、「商業サービス業」の区分に入って、常時使用する従業員が5人以下なら小規模事業者になります。製造業その他の「20人以下」より枠が狭く、従業員が6人以上いる整備工場は対象外になる点に注意してください。
| 区分(持続化補助金の業種区分表) | 小規模事業者となる従業員数 | 整備業の扱い |
|---|---|---|
| 製造業その他 | 20人以下 | — |
| 商業サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) | 5人以下 | こちら |
| 商業サービス業のうち宿泊業・娯楽業 | 20人以下 | — |
従業員数には会社役員や個人事業主本人は通常含めません。業種区分は現に行っている事業の実態で判定されるため、細部は補助金ごとの公募要領・参考資料で確認してください。
つまり、従業員5人以下なら、持続化補助金とデジタル化・AI導入補助金の両方が候補に入ります。6人を超える規模なら持続化補助金は使えませんが、デジタル化・AI導入補助金は中小企業として申請できます。まず自店がどちらの立場かをはっきりさせると、この先の判断が速くなります。
デジタル化・AI導入と持続化、どちらに何が入るか
立場が決まったら、二つの中身を並べます。同じ「システムに使える補助金」でも、得意な支出が違います。
| 比べる軸 | デジタル化・AI導入補助金(通常枠) | 持続化補助金(一般型・通常枠) |
|---|---|---|
| 主な対象 | 登録されたソフトの導入費 | 販路開拓の取り組み(広告・ホームページ等) |
| 補助率 | 1/2(賃上げ要件充足で2/3) | 2/3 |
| 補助上限 | 最大450万円 | 50万→最大250万円 |
| 窓口 | 登録IT導入支援事業者 | 地元の商工会議所・商工会 |
| 計画の作り方 | 支援事業者と申請 | 商工会議所と経営計画を作る |
数値は中小企業庁の公募要領(デジタル化・AI導入補助金2026/令和7年度補正・持続化補助金)による。旧IT導入補助金2025は2026年1月7日に公募終了し、2026年2月27日から現行制度に切り替わっています。枠・上限は年度の公募要領で変わるため申請前に最新版を確認してください。
読み解く要点は三つです。一つ目、ソフトの本体費はデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が引き受けます。通常枠の補助率は原則2分の1で、令和6年10月〜令和7年9月に最低賃金近傍の従業員を一定割合雇用していた実績があると3分の2に上がります。50万円以下部分の補助率が4分の3・小規模事業者は5分の4まで上がるのは通常枠ではなく、インボイス対応類型(インボイス枠)の数値です。パソコンやタブレット、レジ・券売機といったハードも、通常枠では対象外で、インボイス枠でのみ一部補助されます(PC・タブレット等は上限10万円、レジ・券売機等は上限20万円)。
二つ目、持続化補助金は「ソフトを買う制度」ではありません。商工会議所と作る経営計画にもとづいて、販路を広げる取り組みを支える制度です。予約が取れるホームページの新設や、車検・買取のチラシ作成といった販路の取り組みの中に、システムの費用を組み込む形で使います。上限は基本50万円、補助率3分の2で、インボイスや賃上げの要件を満たすと上乗せがあり、特例を重ねると最大250万円まで広がります。
三つ目、窓口が別です。デジタル化・AI導入補助金は登録された支援事業者を通して申請し、持続化補助金は地元の商工会議所・商工会の伴走を受けて経営計画を作ります。どちらに相談に行くかで、最初の一歩が変わります。
入れたい支出を、ソフトと販路に仕分ける
ここが意思決定の中心です。入れたいものを一つの基準で仕分けます。「ソフト本体か、客を増やす取り組みか」。これで使う補助金がほぼ決まります。
- 入れたいものを全部書き出す:予約システム、整備記録・顧客台帳、見積りソフト、ホームページ刷新、チラシ、パソコンやタブレット、レジ。金額も横に書く。
- ソフト本体に印をつける:予約・記録・見積り・会計などの業務ソフトは、デジタル化・AI導入補助金の側に寄せる。ソフト単体で補助対象になる、通常枠の本命です。
- 客を増やす取り組みを分ける:ホームページの新設やチラシなど、販路を広げるものは持続化補助金の側に寄せる。
- 金額の大きい順に一つ選ぶ:両方は同時に通りにくいので、効果と金額が大きいほうから一つに絞って、その窓口に相談する。
予約・整備記録・見積りのソフトをまとめて入れたい → デジタル化・AI導入補助金。
車検客を増やすホームページとチラシを作りたい → 持続化補助金。
パソコンやタブレットだけ → 通常枠では対象外(インボイス枠でのみ一部対象)。単独より、業務ソフトと一緒にインボイス枠で入れるほうが筋が通ります。
仕分けが終われば、相談先は自動的に決まります。ソフトが本命ならIT導入支援事業者へ、販路が本命なら商工会議所へ。どちらに行くか迷う状態のまま相談に行くと、話が散らかります。先に紙の上で仕分けておいてください。
後払いと審査――補助金で資金繰りを崩さない
補助金を「申請すれば値引きされる」と思っていると、資金繰りでつまずきます。二つの注意を先に押さえます。
第一に、どちらも審査があり、採択されて初めて使える制度です。申請したら必ず通るわけではありません。第二に、支払いは後払い(精算払い)が基本です。先に自費で発注して支払い、実績を報告したあとに補助分が振り込まれます。当座の資金は自店で用意しておく必要があります。
補助金ありきで発注先や金額を決めないでください。採択されなくても回る計画にしておき、通れば手元が楽になる、という順番にします。補助が出るのは初期費用が中心で、毎月の利用料はその後ずっと自店の負担になる点も忘れないでください。一度入れたら簡単には止められないのがシステムです。補助の有無だけでなく、毎月いくら払い続けるかで選んでください。
あなたの店が来週からできること
制度の話で終わらせず、月曜から動ける手順にします。順番は、確かめる・仕分ける・相談する、です。
- 常時使う従業員数を数え、5人以下かどうかを確かめる(自動車整備業は「商業サービス業」区分で5人以下が小規模事業者)
- 入れたいものを紙に全部書き出し、金額(初期費用と毎月の利用料)を横に書く
- それぞれに「ソフト本体」か「客を増やす取り組み」かの印をつける
- ソフトが本命なら、検討中のシステム会社が登録IT導入支援事業者かを確認して相談する
- 販路が本命なら、地元の商工会議所・商工会に経営計画づくりの相談に行く
- いまの公募の時期と締切、補助率・上限の最新の数字を出典の公募要領で確認する
- 後払いを前提に、発注額をいったん全額自費で払えるかを確かめる
- 採択されなくても進めるか、通ったら何に回すかを決めておく
補助金は、入れたいシステムを安くする手段であって、入れる理由にはなりません。立場を確かめ、支出を仕分け、後払いに備える。この順番をそろえた店から、無駄な利用料を抱えずに必要なシステムへ手が届きます。