車検も入庫も回っているのに、決算でお金が残らない
ピットは毎日埋まっていて、車検も一般整備も切れ目なく入っている。それなのに決算書を開くと、手元に残る利益が思ったより薄い。値上げした年も、入庫が増えた年も、最後の利益はあまり変わらない。あなたが見ているのがこの景色なら、まず疑うべきは「売上が足りない」ではありません。
整備業は、忙しさと残る利益が結びつきにくい商売です。理由は売上の規模ではなく、利益の構造にあります。この記事では、利益がどこで残ってどこで消えるのかを、二つの数字で見極めます。一つは整備要員1人あたりが生む売上、もう一つは何の作業で稼いでいるかという構成です。どちらも自店の決算書と日報から出せる数字で、出した瞬間に次の一手が決まります。
使う数字はすべて、国(中小企業庁・国土交通省)と日整連(日本自動車整備振興会連合会)の調査から取ります。同業の平均が手元にあると、自店が平均のどちら側にいるかがわかり、感覚ではなく数字で判断できます。
粗利は41%出ている。消えているのは営業利益のほう
「整備は儲からない」とよく言われます。ここを粗利と営業利益に分けると、言葉の印象とは逆のことが見えてきます。中小企業庁の令和4年中小企業実態基本調査をもとにした業界分析では、自動車整備業の数字はこうなっています。
| 見る利益 | 自動車整備業 | サービス業平均 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率(粗利率) | 41.4% | 45.4% |
| 売上高営業利益率 | 1.2% | 3.5% |
| 売上高経常利益率 | 3.2% | 5.2% |
| 付加価値率 | 39.2% | 54.7% |
出典:リスクモンスター「業界レポート 自動車整備業」(2024年)が引用する中小企業庁「令和4年中小企業実態基本調査」。比較対象は「サービス業(他に分類されないもの)」。
粗利率は41.4%で、サービス業平均とそれほど変わりません。部品の仕入れ値に工賃が乗るので、粗利そのものはきちんと出ています。ところが営業利益率は1.2%まで落ちます。粗利で残した40%分が、人件費と家賃・光熱費・機器代といった販管費でほぼ使い切られているという意味です。儲からないのは粗利が薄いからではなく、粗利が営業段階で消えるから。これが整備業の利益構造の出発点です。
もう一つ、付加価値率が39.2%とサービス業平均より15ポイントほど低い点も同じことを指しています。売上のうち部品代など外に出ていく分が大きく、自店の中に残って人件費や利益に回せる部分が小さい。だから利益を残すには、売上の総額を増やすより、限られた付加価値をどれだけ効率よく生むかを見るほうが効きます。
利益を見極める一つ目の物差し:1人あたり整備売上高
営業利益が薄い構造のなかで、利益が残る店と残らない店の差はどこに出るか。一番わかりやすいのが、整備要員1人あたりが年間にいくら売上を生むか、という生産性です。日整連の令和6年度実態調査では、業態でこれだけ差がついています。
| 業態 | 整備要員1人あたり年間整備売上高 |
|---|---|
| 全体(自家を除く) | 1,562.7万円 |
| 専・兼業(町の整備工場など) | 1,137.4万円 |
| ディーラー | 2,518.8万円 |
出典:日整連「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」(1人あたり年間整備売上高)。「自家」は自社車両の整備が主な事業場のため全体平均から除外。
同じ整備の仕事で、専・兼業とディーラーで1人あたり倍以上の差があります。ディーラーは新車販売とつながった入庫や、単価の高い作業を抱えやすいぶん、1人が生む売上が大きい。これは店の規模ではなく、整備士1人が一年でどれだけの売上を生むかの差です。
あなたの店の値は、決算書の年間整備売上高を整備要員数で割れば出ます。まずこの一つを出して、専・兼業の平均1,137万円と比べてください。下回っているなら、利益が薄い原因は「客が少ない」ではなく「1人が通す売上が小さい」側にあります。打ち手は二つに分かれます。1人が抱える作業の単価を上げるか、待ち時間や手戻りを減らして同じ人数で通す台数を増やすか。どちらも次の章の「何で稼いでいるか」とつながります。
二つ目の物差し:何の作業で稼いでいるか
1人あたりの売上を見たら、次はその売上が何の作業からできているかを見ます。整備全体の売上を作業内容で分けると、構成はこうなっています。
| 作業内容 | 全国の売上(令和5年度実績) | 構成比 |
|---|---|---|
| 車検整備 | 2兆5,400億円 | 約41% |
| その他整備(一般整備など) | 2兆1,395億円 | 約34% |
| 事故整備 | 1兆1,198億円 | 約18% |
| 定期点検整備 | 4,568億円 | 約7% |
出典:日整連「令和6年度 自動車特定整備業実態調査結果の概要」(作業内容別整備売上高・合計)。構成比は総整備売上高6兆2,561億円に対する割合を編集部で算出。
業界全体では車検整備が約4割を占め、一般整備がそれに次ぎます。車検は数が読めて回転も速い柱ですが、相見積もりにさらされやすく、価格で比べられがちな作業でもあります。一方で事故整備や、2020年に始まった電子制御装置整備のような作業は、技術と認証がいるぶん、よそと値段だけで比べられにくい。
ここで自店の売上を同じ四つに分けてみてください。車検に偏っていて、しかもその車検を相場より安く請けているなら、忙しさのわりに利益が薄くなる理由がはっきりします。回転で稼ぐ作業(車検)と、技術で差がつく作業(事故整備・電子制御装置整備)は、値づけの考え方を変えるべきです。前者は段取りで台数を通し、後者は単価で残す。同じ「整備売上」でも、利益への効き方が違います。
安く請けた工賃が、そのまま人件費を削っている
1人あたりの生産性も、作業の構成も、最後は工賃の値づけに行き着きます。整備料金は「標準作業点数 × レバーレート(1時間あたりの工賃)」で組み立てるのが基本で、日整連の調査では一般整備の受取工賃を出すときに82.9%の事業者がレバーレートを使っていました。問題は、その水準が原価に見合っているかどうかです。
| 自社レバーレートの水準 | 事業者の割合 |
|---|---|
| 9,000円以上 | 37.5% |
| 8,000円台 | 22.5% |
| 7,000円台 | 18.5% |
出典:日整連 令和4年度実態調査(自社レバーレートの状況)。9,000円以上は平成28年度調査では10.6%で、水準は上がってきています。
9,000円以上が最も多く、水準は数年で上がってきました。それでも、自店のレバーレートを最後に見直したのがいつか思い出せないなら、そのあいだに上がった人件費・光熱費・機器の更新費が、古い工賃のなかに吸収されている可能性があります。安く請けた一台のしわ寄せは、どこかが負担します。整備業では、それが整備士の人件費に回りやすい。工賃を据え置くことは、賃上げの原資を自分で削ることと同じです。
レバーレートの出し方は日整連が算出マニュアルを公開していて、自店の人件費・経費・適正利益から1時間あたりの単価を逆算できます。一律に全部を上げる話ではありません。価格で比べられる作業は段取りで、技術で差がつく作業は単価で、と分けて見直すのが、ここまでの二つの物差しと一本でつながります。
あなたの店が、今期の数字で確かめること
大きな話で終わらせず、自店の数字に当てる手順にします。必要なのは決算書と整備の日報だけで、新しい調査はいりません。
- 年間整備売上高 ÷ 整備要員数 を計算し、専・兼業の平均1,137万円と比べる
- 下回っているなら、原因が「単価が低い」のか「同じ人数で通す台数が少ない」のかを日報から切り分ける
- 自店の整備売上を車検・一般・事故・定期点検の四つに分け、どこに偏っているか見る
- 車検に偏り、その車検を相場より安く請けているなら、忙しさのわりに残らない理由がそこにある
- 自社レバーレートを最後に見直した時期を確認し、今の人件費・経費・適正利益から1時間単価を出し直す
- 価格で比べられる作業は段取りで台数を、技術で差がつく作業は単価で利益を残すように分ける
利益が残らないのは、忙しさが足りないからではありません。粗利は出ているのに営業段階で消えていて、その消え方は1人あたりの生産性と作業の構成、そして工賃の値づけで決まります。この三つを今期の数字で確かめた店から、同じ売上でも手元に残る利益が変わってきます。