損か得かの前に、自店がどちら側かを決める

インボイスで損をするのか得をするのか、はっきり分からないまま日々が過ぎているなら、最初に切り分けるのは一つだけです。自店が消費税を受け取って納める側なのか、それとも消費税をもらわずに済んでいる側なのか。ここを混ぜると、必要のない心配と、見落としてはいけない出費が両方出てきます。

整備や車検で売上がそれなりにある店は、消費税を預かって納める課税事業者です。この場合に響くのは、自店が払う側、つまり外注の整備士やレッカー、部品屋への支払いです。相手に登録番号がないと、その支払いに含まれる消費税を差し引けなくなっていきます。売上が小さく消費税を納めずに済んでいる店なら、見る場所は逆になります。取引先からインボイス(登録番号入りの請求書)を求められるかどうかです。

同じ「インボイスの影響」でも、受ける側と出す側で見る場所がまるで違います。次の二つの章で、それぞれの立場から自店に当てて見ていきます。自分がどちらか迷うなら、直近の確定申告で消費税を納めたかどうかが目安になります。

受ける側:外注先に登録番号のない相手はいるか

消費税を納めている店にとって、インボイスの影響は仕入れと外注の支払いに出ます。整備の現場には、忙しいときに頼む一人親方の整備士、引き取りを任せるレッカー、特殊な部品を出してくれる小さな業者がいます。こうした相手が免税事業者で登録番号を持っていないと、その支払いに含まれる消費税を差し引く(仕入税額控除)ことが、満額ではできなくなります。

ただし、いきなりゼロになるわけではありません。登録番号のない相手への支払いも、当面は一定の割合まで差し引けます。割合はこれから段階で下がっていきます。

期間登録番号のない相手への支払いで差し引ける割合
2026年9月まで80%
2026年10月〜2028年9月70%
2028年10月〜2030年9月50%
2030年10月〜2031年9月30%
2031年10月以降0%

令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)による。当初は2026年10月から50%へ一段で下げる予定でしたが、期限を2年延ばし、70%→50%→30%と段階で下げる形に見直されました。

金額で見てみます。免税の外注先に年間で税込110万円(うち消費税10万円)を支払う店なら、今は8万円を差し引けます。2026年10月からは7万円になり、差し引けない分が2万円から3万円に増えます。1社ならわずかですが、外注の多い店ほど積み上がります。負担を左右するのは、登録番号のない外注先が何社あり、年いくら払っているかです。まずはここを数えるところから始まります。

なお令和8年度の見直しでは、登録番号のない相手からの仕入れがその年に税込1億円を超えると、超えた部分はこの割合の差し引きが使えなくなります(改正前は10億円)。多くの整備工場では届かない水準ですが、仕入れの大きい店は頭の隅に置いてください。

出す側:自店が免税なら、登録するかしないか

売上が小さく消費税を納めずに済んでいる店、あるいは個人で整備を請けている人にとっての論点は、登録番号を取って課税事業者になるかどうかです。判断は、自店の取引先が「消費税を納める相手」かどうかで決まります。

登録して課税事業者になる場合、納税の重さをやわらげる仕組みが期間限定であります。免税から課税に変わった人は、納税額を売上にかかる消費税の2割に抑えられます(2割特例)。事前の届出は要らず、申告のときにこの特例を使うと書き添えるだけです。対象は2023年10月から2026年9月までの課税期間で、終了が近づいています。

取引先に登録を促すときの線引き

受ける側として外注先に登録をお願いしたい場面もあります。ただし「登録しないなら消費税分は払わない」と一方的に値段を下げると、独占禁止法や下請法で問題になることがあります。相手の腕や代わりのきかなさも踏まえ、増える負担をどう分け合うかを話し合う姿勢が要ります。

課税方式の選び方で、整備の手取りが変わる

自店が消費税を納める側だと決まったら、次は納め方です。同じ売上でも、選ぶ課税方式で手取りが変わります。整備や車検の役務は、簡易課税では第五種事業(みなし仕入率50%)です。加工賃のように見えて第三種(70%)に思えますが、国税庁は日本標準産業分類でサービス業に当たるとして第五種としています。ここを取り違えると納税額の見込みが狂います。

納め方納税の考え方使える時期・条件
2割特例売上の消費税の2割を納める免税から課税に変わった人。2026年9月まで
簡易課税(第五種)売上の消費税の5割(みなし仕入率50%)を差し引いて納める前々年の課税売上5千万円以下。事前の届出が必要
原則課税実際に払った消費税を集計して差し引く誰でも。設備投資が大きい年はこちらが有利な場合も

みなし仕入率・売上基準は国税庁の制度による。中古車販売を併せて行う店は、整備と販売で区分が分かれ得るため、売上を分けて把握する必要があります。

整備が売上の中心で、外注や部品の仕入れがそれほど大きくない店なら、簡易課税は事務の手間も納税額も読みやすい選択肢です。実際に払う消費税を一件ずつ集計しなくても、売上から計算できるためです。一方、設備や工具に大きく投資した年は、原則課税で実際の支払いを集計したほうが納税が少なくなることもあります。自店の仕入れの大きさと、年ごとの投資の波を見て選びます。

2026年10月の変更を、今のうちに頭に入れる

インボイスは始まって終わりではなく、これから動きます。あなたの店が見ておくべき節目を一つの並びにします。

  1. 2026年9月:免税から課税に変わった人の2割特例が終わります。翌期からは原則課税か簡易課税のどちらかで申告します。
  2. 2026年10月:登録番号のない相手への支払いで差し引ける割合が、80%から70%に下がります。同時に、年1億円を超える分は差し引けなくなります。
  3. 2028年10月:割合が50%に下がります。
  4. 2030年10月:割合が30%に下がります。2031年10月で差し引きはなくなります。

当初の制度では2026年10月に一気に50%へ下げる予定でしたが、令和8年度の見直しで期限が2年延び、下げ方もゆるやかになりました。これは、登録番号のない相手と取引を続けたい店にとっては猶予が増えたことを意味します。慌てて外注先を切る必要はありません。9月までに棚卸しを終え、増える負担を値づけでどう吸収するか決めておけば間に合います。

数字を扱うときの注意

控除割合や上限額は令和8年度税制改正大綱(与党公表)に基づくものです。実際の取り扱いは国税庁の確定した案内で必ず確認してください。自店の納税額は事業年度・売上・仕入れで変わるため、金額の判断は顧問税理士に当ててから決めるのが安全です。

あなたの店が来週からできること

制度の話で終わらせず、月曜から動ける形にします。順番は前の章までのとおり、立場の確定・棚卸し・課税方式・値づけです。

今週やる:立場と取引先の棚卸し
  • 直近の確定申告で消費税を納めたか確認し、自店が受ける側か出す側かをはっきりさせる
  • 外注の整備士・レッカー・部品業者の請求書をめくり、登録番号(Tで始まる13桁)の有無を一覧にする
  • 登録番号のない相手への年間の支払額を合計し、差し引けない分が今いくら・2026年10月以降いくら増えるか出す
今月やる:課税方式の確認
  • 自店が簡易課税か原則課税かを確認し、整備売上が第五種(みなし仕入率50%)で計算されているか顧問税理士に当てる
  • 免税で登録を迷っているなら、取引先の顔ぶれ(事業者中心か一般客中心か)で登録の要否を決め、登録するなら2割特例の期限を確認する
今期やる:値づけと取引の見直し
  • 差し引けなくなる分を、整備工賃の値づけでどこまで吸収できるか試算する
  • 登録番号のない外注先について、腕・代替の有無・増える負担を見比べ、続けるか登録を相談するかを一社ずつ決める

インボイスは一律の損ではありません。自店がどちら側かを決め、登録番号のない取引を数え、課税方式に当てる。この順に手を動かした店から、2026年10月の変更を慌てずに迎えられます。