廃業は過去最多、なのに市場は増えている
同業の工場がまた一軒シャッターを下ろしたと聞いて、自分の店はあと何年もつのかと考える夜があるはずです。その不安は正しい。ただし、どこを心配するかを取り違えると、打つ手まで外します。まず二つの数字を並べてください。
整備事業者の休廃業・解散は、2024年度に382件で過去最多を更新しました。倒産63件を足すと、1年で445の店が市場から消えています(帝国データバンク)。ここだけ見れば、整備の仕事そのものが先細っているように感じます。
ところが同じ年度、自動車特定整備業の総整備売上高は6兆2,561億円で、前年度比5.9%増、3年連続の増加でした(日整連)。乗用車の平均車齢も9.44年と33年連続で延び、古い車の整備・車検の仕事は当面残ります。市場は増えているのに、店は過去最多で消えている。この二つが同時に起きていることが、答えそのものです。
消えているのは市場が縮んだからではありません。人件費も部品の仕入れも上がる中で、そのぶんを工賃に乗せられず、赤字に沈んだ店から順に脱落しています。実際、2024年度は整備事業者の26.2%が赤字、減益を含めれば52.9%が業績悪化でした。つまり消える店と残る店を分けているのは規模でも立地でもなく、上がった原価を値づけに反映できたかどうかです。順に見ます。
残る店との差は、まず値づけに出る
残る店がまず握っているのは、整備工賃(レバーレート)と粗利です。市場が増えている年に赤字へ落ちる店は、ほぼ例外なくここを長く据え置いています。最低賃金は毎年上がり、部品も値上がりしているのに、工賃だけ数年前のままなら、1台直すたびに利益が薄くなります。
あなたの店がどちら側にいるかは、次の三つを出せば分かります。背伸びした管理表は要りません。手元の請求と仕入れの数字で足ります。
| 確かめる数字 | 取り方 | 危ない目安 |
|---|---|---|
| 整備工賃(レバーレート) | 1時間あたりの工賃。最後に上げたのはいつか | 3年以上据え置き |
| 直近12か月の粗利率 | (売上−部品仕入−外注)÷売上 | 前年より低下している |
| 赤字仕事の比率 | 原価割れ・薄利で請けた件数の割合 | 常連の値引きが固定化 |
値づけは1台ごとの差が小さく見えても、年間の台数を掛けると人件費1人分の差になります。まず実額を出してから判断してください。
工賃を上げると客が離れる、と感じる社長は多い。しかし車検や一般整備は、近所で続けて任せられることに価値があり、数百円の時間工賃差だけで乗り換える客ばかりではありません。むしろ赤字のまま安く請け続けるほうが、賃上げの原資を失い、人が辞め、店ごと続かなくなります。値づけを直すのは、残るための最初の一手です。工賃の上げ方そのものは別の回で扱います。
人をつなぎとめられるかが、二つ目の分かれ目
値づけで原資を作っても、現場を回す人がいなければ仕事は受けられません。整備士の有効求人倍率は令和6年度で5.45倍、全職業の1.25倍に対し約4.4倍の奪い合いです。今いる人が一人抜けるだけで、受けられる台数が落ち、残った人の負担が増えて次の離職を呼びます。残る店は、採ることより先に、辞めさせない側に手を打っています。
つなぎとめの打ち手は、お金をかけずに今日から動けるものから始めます。国土交通省も整備業向けに働きやすい職場づくりの方向性を示しており、要点は次に絞れます。
- 賃上げの原資を、値づけで先に作る。手当を上げる約束だけ先行させない。
- 資格手当・役職手当を金額で明記する。あっても書いていなければ無いのと同じです。
- 休みが希望どおり取れているか、残業が原則のルール(月45時間・年360時間など)の内側かを台帳で確かめる。
- 若手に年齢の近い先輩を一人つけ、最初の数か月は短い面談を毎週入れる。
人手不足への備えは採用だけの問題ではありません。詳しい打ち手は整備士が足りない時代への備えでも具体化しています。ここで押さえるのは、残る店は「採れないなら受注を絞る」ではなく、「今いる人が辞めない・育つ」を先に固めているという点です。
仕事の中身を、車の側に合わせて更新する
値づけと人を固めたら、扱う仕事の中身を車の変化に合わせます。ここで先走ってEVへ全振りすると、足元の仕事を取りこぼします。新車販売に占める電気自動車の比率は2024年で約1.35%にとどまり、過半を占めているのはハイブリッド車(構成比61.1%)です。当面の主役は内燃機関とハイブリッドの整備で、平均車齢9.44年の古い車も毎年あなたの店に入ってきます。
変わるのは動力源より先に、電子制御の比重です。自動ブレーキや車線維持などの先進安全装置を分解・調整する作業は、特定整備のうち「電子制御装置整備」にあたり、認証と設備、それを扱える人が要ります。残る店は、ここを次の収益源として早めに取りにいっています。
急がず段階で進めます。第一に、すでに入庫する車の先進安全装置に自店が対応できているかを点検する。第二に、特定整備(電子制御装置整備)の認証取得を計画に乗せる。第三に、設備と研修への投資を、値づけで作った原資の範囲で進める。原資のないまま設備だけ先に買うと、二つ目の分かれ目(人)まで崩します。
EV時代への備えは別の回で扱いますが、いま確実なのは「ガソリン車の整備が急に消えはしないが、電子制御を扱えない店から選択肢が狭まる」ということです。認証や特定整備の段取りは整備の制度改正で何にいつ対応するかで全体像を確かめてください。
自店の数字を握っている社長だけが、早く気づける
ここまでの三つ(値づけ・人・仕事の更新)に共通するのは、手遅れになる前に気づけるかどうかです。赤字で消える店の多くは、決算でようやく赤字を知ります。残る店の社長は、毎月もっと粗い数字で異変を拾っています。
難しい会計は要りません。毎月1枚、次の数字を並べるだけで、三つの分かれ目のどこが緩んでいるかが見えます。
- 今月の売上・部品仕入・外注費から、粗利率を出す(値づけが効いているか)。
- 稼働した整備士の数と、受けた台数・断った台数を書く(人が足りているか)。
- 先進安全装置に関わる入庫の件数を数える(仕事の中身が変わっていないか)。
3か月並べると、季節要因と本当の悪化が分かれて見えてきます。粗利率が前年より落ちていれば値づけ、断った台数が増えていれば人、先進安全装置の入庫が増えているのに対応できていなければ仕事の更新が、あなたの店のいま一番弱い分かれ目です。数字を握っている社長は、赤字が決算で確定する前に手を打てます。
来月、どこから手をつけるか
大きな話で終わらせず、来月から動ける形にします。①〜④を一度に全部はやりません。まず値づけで土台を作り、人を固め、仕事を更新し、毎月の数字で続ける。この順です。
- 整備工賃を最後に上げたのはいつか確認し、最低賃金・部品の値上がりに合っているか見直す
- 直近12か月の粗利率を出し、前年と比べる(落ちていれば原因を1台ごとに洗う)
- 原価割れ・薄利で固定化した常連仕事を一覧にし、値づけを直す対象を決める
- 資格手当・役職手当を金額で書き直し、若手に先輩を一人つける
- 残業・休日が原則のルールの内側か、台帳で確かめる
- 入庫車の先進安全装置に対応できているか点検し、電子制御装置整備の認証を計画に乗せる
- 粗利率・整備士数と受注/断り台数・先進安全装置の入庫件数を1枚に並べる
- 3か月並べて、季節要因と本当の悪化を切り分ける
市場は増えています。消えるのは、その増えた仕事を赤字で請け続けた店です。値づけで原資を作り、人をつなぎとめ、仕事を更新し、毎月の数字で異変に早く気づく。この四つをそろえた店から、次の10年に残ります。