外注を出した瞬間に、あなたは「委託する側」になる

板金や塗装の設備がないので塗装屋に回している。車検の一部を提携工場に頼んでいる。あなたの店でもよくある外注ですが、この一本の発注で、あなたは法律が見る「委託する側」に立ちます。下請法の名前で覚えていたこの取引は、2026年1月から取適法という新しいルールに変わりました。

整備の現場では、外注は受ける話と出す話の両方があります。ディーラーや保険会社から整備を請けるとき、あなたは守られる側です。逆に鈑金塗装を他社へ回すとき、あなたは守る義務を負う側になります。同じ一台の修理で立場が入れ替わるので、まず「いまの取引で自分はどちらか」を切り分けるところから始めます。

放っておくと痛いのは、出す側に立っていることに気づかないままのときです。発注書を出さず、支払を月末締めの翌々月手形で続けていると、知らずに違反していることがあります。違反すると公正取引委員会から指導や勧告を受け、相手に与えた不利益が大きければ社名が公表されます。地元で名前が出るのは、整備の信用商売には重い傷です。

下請法は2026年に「取適法」へ変わった

検索すると「下請法」と出てくるのに、役所の資料では「取適法」と書かれている。別の法律に変わったわけではありません。下請代金支払遅延等防止法(下請法)が改正され、2026年1月1日から名前と中身が変わりました。

項目これまで(下請法)2026年1月から(取適法)
法律の通称下請法取適法(中小受託取引適正化法)
発注する側の呼び方親事業者委託事業者
受ける側の呼び方下請事業者中小受託事業者
対象を決める基準資本金のみ資本金 + 従業員数(どちらか該当で対象)
手形での支払長すぎる手形が問題手形払いを一律禁止
代金の決め方買いたたきの禁止協議に応じない一方的な代金決定も禁止

出典:公正取引委員会「取適法リーフレット」、政府広報オンライン。呼び名と基準が変わったので、旧名で覚えた取引も新基準で見直してください。

呼び名が変わったのは、「下請」という言葉が上下関係を思わせるためです。中身では、対象を決める基準に従業員数が加わり、これまで資本金が小さくて対象外だった会社も従業員数で対象に入るようになりました。さらに、受ける側の資金繰りを苦しめる手形払いの禁止と、値上げの協議に応じず一方的に代金を決める行為の禁止が新しく入っています。

対象かどうかは、取引の種類と相手の規模で線引きする

すべての外注が対象になるわけではありません。対象に入るかは、二つの条件を両方満たすかで決まります。一つは取引の種類、もう一つは自店と相手の規模です。

条件1:取引の種類が「修理委託」などにあたるか

整備業でいちばん関わるのは修理委託です。元の機能を失った物に手を加えて元どおりに直す作業を他社に委ねるもので、ボディー外板の鈑金修理もここに入ります。発注元へ出向く出張修理も、物の納入はなくても修理委託にあたります。車検整備の一部を提携工場に任せる、塗装だけ専門店に出す、こうした外注は修理委託です。

条件2:自店と相手の規模が、義務を負う組み合わせか

取引の種類が当てはまったら、次に資本金(または従業員数)を突き合わせます。製造委託・修理委託では、次の組み合わせのとき、発注する側が委託事業者として義務を負います。

発注する側(あなた)受ける側(外注先)あなたの立場
資本金3億円超資本金3億円以下委託事業者(義務あり)
資本金1,000万円超〜3億円以下資本金1,000万円以下委託事業者(義務あり)
資本金1,000万円以下資本金1,000万円以下対象外

出典:公正取引委員会「ポイント解説」、自動車公正取引協議会Q&A。製造委託・修理委託の資本金区分。

2026年からは、これに従業員数の基準が加わりました。製造委託・修理委託では、相手の資本金が1,000万円超でも、相手の常時使用する従業員が300人以下なら対象になります。役務提供などでは100人が境目です。資本金か従業員数のどちらかで当てはまれば対象なので、相手が法人なら資本金、わかりにくければ従業員数の両方で確かめてください。あなたの店の資本金が1,000万円以下どうしの外注は、種類が修理委託でも対象外です。

委託する側になったら守る3点

線引きの結果、あなたが委託する側で対象に入ったら、整えるのは3点です。むずかしい届出はなく、発注のやり方を変えるだけです。

  1. 発注書を出す:口頭やLINEだけで頼まず、作業内容・数量・単価・支払期日・支払方法を書いた発注書(または電磁的記録)を、発注の時点で相手に渡す。あわせて取引内容を記した書類を作り、保存する。これを怠ると50万円以下の罰金の対象です。
  2. 60日以内に現金で払う:代金の支払期日は、給付を受領した日から起算して60日以内に決め、その期間内に支払う。検査の期間も60日に含まれ、「検査合格から60日」は認められません。手形での支払は対象取引で禁止されたので、銀行振込に切り替える。60日を超えると年14.6%の遅延利息が法律上発生します。
  3. 一方的に値段を決めない:相手から値上げの相談があったら協議に応じる。求めを無視したり、繰り返し先延ばしにして協議を困難にさせる対応は、一方的な代金決定として禁止行為にあたります。原価が上がった分の転嫁を話し合った記録を残す。

このうち外注先が小さいほど効くのが、支払の早さと現金化です。塗装屋や提携工場の資金繰りは、月末締め翌々月手形では回りません。発注書と現金60日払いを先に整えておくと、頼める外注先を逃さずに済みます。

ディーラーから請けている側のあなたへ

外注を出すより、ディーラーや保険会社から整備を請けるほうが多い店もあります。そのときあなたは中小受託事業者、つまり法律が守る側です。守られる側として、使える盾を2つ押さえておきます。

請ける側が言ってよいこと

工賃や部品代が上がったとき、値上げの協議を申し入れてかまいません。相手がその協議に応じず据え置きを一方的に通すなら、取適法が新たに禁止した「協議に応じない一方的な代金決定」にあたりえます。協議の申し入れと相手の対応は、日付がわかる形で記録に残してください。

もう一つの盾は、発注書をもらう権利です。委託する側には発注書の交付が義務づけられているので、「いくらで何を頼まれたか」が書面で残ります。後から「言った言わない」で代金を削られたとき、この発注書が物証になります。発注書が出てこない、内容が曖昧なまま作業を求められる、そうした取引ほど危険です。応じてもらえないときは、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口に持ち込めます。匿名でも相談できます。

兼営・グループ会社で見落としやすい落とし穴

線引きで間違えやすい場面が二つあります。先に知っておくと、判断を迷いません。

判断に迷う取引は、自分で白黒つけずに残しておきます。自動車業界には自動車公正取引協議会が出した下請法のQ&Aがあり、出張修理や鈑金の扱いなど整備特有の例が載っています。微妙な取引は、この業界向けの資料と公正取引委員会の窓口で確かめてから動けば、後でひっくり返りません。

今週、自店の外注で確かめること

制度の話で終わらせず、月曜から動ける形にします。順番は記事のとおり、種類・規模・3点の整備です。

今週やる:外注の棚卸し
  • 出している外注を書き出す(鈑金・塗装・車検の一部・電装など)。それぞれ修理委託にあたるか確認する
  • 自店の資本金と、主な外注先の資本金または従業員数を並べ、どの取引が対象に入るか線引きする
  • 対象の外注に発注書を出しているか、支払が受領から60日以内の現金になっているか点検する
今月やる:3点の整備
  • 発注書の様式を作る(作業内容・数量・単価・支払期日・支払方法を1枚に)。口頭発注をやめる
  • 外注先への手形払いを現金(銀行振込)に切り替える段取りを資金繰りと合わせて決める
  • 請ける側の取引では、値上げ協議の申し入れと相手の回答を日付つきで残す台帳を用意する

外注は、設備や人を増やさずに仕事の幅を保つための大事な手です。だからこそ、頼める相手を制度の不備で失わないように、発注書と支払の形を先に整えておく。立場が入れ替わる取引だからこそ、取引ごとに自分がどちら側かを見分けられる店ほど、外注先との関係が長く続きます。